昔、まだザウスがあった頃、コソ練に行って鼻の骨を折ったことがあった。
あの頃は、なんだか、しょっちゅう怪我をしてた。
自宅近くの大きな病院へ行くと、処置室の一番奥の歯医者にあるようなイスに座らされた。
「痛いと思いますが辛抱してください」医者に念を押され、3人の看護婦がぐるりを囲み「頑張って!」などと励まされると、その状況だけでワタシの血圧は一気に上がり、注射を打たれ、術後しばらくそこに寝かされた。
チバちゃんがバリバリに働いていた頃だから、もう何年前の話だ。
その同じイスに、つい先日、また座る羽目になった。
「イィ〜って言って。イィ〜。そう。イィ〜。今度はもっと高い声で。イィ〜。イィ〜」
医者は内視鏡をワタシの口に入れ、ベロを片手で引っ張りながら、モニターに映る画像をチェックしてる。
傍らには信頼の置けそうな年配の看護婦がいて、2人で画面を見ながら意見を交わしている。
「のど詰めだね。声帯もずいぶん痩せてる」
モニターはもう1台あって、それはワタシが見えるようにセットされているが、写っている画像のどこがそれなのか、さっぱり分からない。
舌を引っ張られるので嗚咽が上がってくる。
医者が手を洗って、ワタシにもくつろぐよう促すと、リモコンでモニターを巻き戻しながら言った。
「のど詰めですね」
???
「たまにいらっしゃるんですけど、声を出す時に他の人の何倍も力を使って声を出してるんですよ。それがどう影響してるのか、今の時点では分かりませんが、声帯も痩せてますね」
エーッ!?
のど詰め? 痩せた声帯?
ワタシはこっそり訊いた。
「のど詰めだから、声がでかいんですか?」
「いや、それは関係ありません」
【次号につづく】
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